高齢者の糖尿病

高齢者の糖尿病

高齢者膵臓の機能は加齢によって低下しますので、高齢になると糖尿病の発症リスクが高くなります。高齢者人口が増加し続けている現在、高齢の糖尿病患者様の比率も上昇傾向にあります。
2019年の『国民健康・栄養調査』では、糖尿病が強く疑われる方が男性の19.7%、女性の10.8%になると報告されています。年代別では、男性の場合は50代17.8%、60代25.3%、70歳以上26.4%、女性の場合は50代5.9%、60代10.7%、70歳以上19.6%と、いずれも年齢が上がるごとに増えています。

高齢者の糖尿病の特徴

加齢によって膵臓のβ細胞が減少して機能を低下させ、インスリン分泌も減少します。また、筋肉量の低下、内臓脂肪の増加、運動量低下によりブドウ糖の消費量が大きく下がります。こうしたことから、高齢者は糖尿病の発症リスクが高くなります。
65歳以上で発症する糖尿病は高齢者糖尿病と呼ばれており、一般的な糖尿病とは症状や合併症などの現れ方や内容に違いがあります。また、高齢者の認知機能や身体機能、社会との関係性などには個人差があり、血糖値の適切なコントロールが難しいケースもあります。安全面も考慮した治療が必要になります。

食後高血糖

加齢によるインスリン分泌の低下に加え、血糖を取り込む筋肉量が減少することで高齢になると食後高血糖を起こしやすくなります。また、空腹時や夜間には腎機能や肝臓機能の低下によって血糖値が低くなり、1日の変動が大きくなる傾向があります。さらに、高齢になると感覚もやや鈍くなることで喉の渇きに気付きにくく、年のせいと頻尿や多尿が見逃されて糖尿病の発見が遅れる可能性があります。また、高血糖が悪化し脱水症状になると血液の濃度が上がってしまい、加齢による動脈硬化も加わって血管の狭窄や閉塞を起こすリスクが大幅に上昇します。

低血糖

高齢になると腎機能や肝臓機能の低下によって、空腹時や夜間に低血糖を起こしやすくなります。ただし、冷や汗や動悸、ふるえなど低血糖特有の症状が現れないことがあり、脳卒中、慢性硬膜下血腫、心筋梗塞、不整脈などを起こすリスクが上昇します。また低血糖による立ちくらみやふらつき、意識消失などを起こすこともあります。高血糖に比べ、低血糖ではこうした深刻な状態になる可能性がありますので、低血糖を防ぐ治療が重要です。

認知機能低下や認知症

認知症イメージ 糖尿病を発症した場合、アルツハイマー型認知症は1.5~2倍になるとされており、脳卒中などで生じる脳血管性認知症の発症リスクは2~3倍になると指摘されています。さらに軽度認知機能障害の発症リスクも高いことが報告されています。こうした認知機能低下や認知症を発症すると記憶力や判断力、注意力などに障害が起こり、薬の管理や服用が困難になってしまいます。

うつ病やうつ傾向

うつ病イメージ
うつ病やうつ傾向は糖尿病発症リスクが高く、また糖尿病になるとうつ病やうつ傾向を発症しやすくなるとされています。糖尿病治療は服薬が必要な場合でも食事療法や運動療法は不可欠ですが、うつ病やうつ傾向があるとこうした自己管理が難しくなり、悪化させやすくなります。また、自己管理をうまくできなくなることで、うつ病やうつ傾向の症状が悪化してしまうケースもあります。疑わしい症状の有無をしっかりと見極め、適切な治療につなげることが必要です。

身体機能低下・骨折や転倒・サルコペニア・フレイル

身体機能の低下、骨折・転倒、加齢によって筋肉や筋肉量が低下するサルコペニア、加齢によって心身の働きが弱くなるフレイルなど、高齢者の糖尿病ではこうした症状を起こすリスクが高くなり、同時にこうした症状が糖尿病の悪化につながるケースもあります。

腎機能や肝機能障害

加齢によって腎臓や肝臓の機能が低下すると、薬の成分の分解や排出といった機能も低下し、糖尿病の血糖コントロールが難しくなり、副作用である低血糖を起こすリスクも上昇します。また、糖尿病の合併症である腎症によって、腎機能低下が悪化しやすくなります。

個人差のある合併症

高齢者の糖尿病では前述したサルコペニアやフレイル、骨折や転倒に加え、心不全、がんなどのリスクが高くなるケースがあります。個人差があるので定期的に必要な検査を行って状態を正確に把握することが重要です。

多くの薬の併用

糖尿病は他の生活習慣病をはじめ、様々な疾患の発症リスクが高く、免疫力が低下しますので感染症の発症や重症化を起こしやすい傾向があります。こうしたことから、高齢者は毎日多くの薬を服用されている方が少なくありません。高齢者が多剤服用を長期間続けると、副作用を起こすリスクが高くなることが報告されています。また、多剤服用では服薬過誤を起こしやすく、倍量を飲んでしまう、薬を飲み忘れるなどを起こして症状の悪化や強い副作用を起こす可能性があります。

生活状況

単身で生活されている場合、介助者のサポートがないと治療や受診の継続が難しくなる可能性があります。経済状況や社会との関わり方によって個人差がありますが、懸念がある場合には医療と福祉が連携して治療を行う必要もあります。