食事療法・運動療法

糖尿病の食事療法

糖尿病の食事療法糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンの不足や働きの低下などによって、慢性的に高い血糖値が続く疾患です。高血糖が続くと全身の動脈・毛細血管・神経にダメージが蓄積されて動脈硬化や合併症が引き起こされ、重大な障害や命の危険につながるリスクが高くなります。血糖値の上昇は食事によって生じますので、糖尿病治療には食事療法が不可欠です。患者様の状態やライフスタイルに合わせた食事療法を行うことで、食後に起こる危険な血糖値上昇を抑制し、高くなった血糖値を速やかに下降させる効果が期待できます。

自分の適正エネルギー量を知る・守る

1日に必要となる適正なエネルギー量(摂取カロリー)は、身長と体重を用いて簡単に計算できます。
適正なエネルギー量を知り、それを守ることで糖尿病の進行抑制や血糖値の上昇を防ぐことができます。1日の適正なエネルギー量を3食でできるだけ等分してとることが推奨されます。
ただし、体格や体調、他の疾患の状態などにより、計算で導かれた適正エネルギー量とは異なる指導がされる場合もあります。その際には医師の指導に従って食事療法を進めてください。

適正エネルギー量の計算方法

標準体重(適正体重)の算出方法

標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22

標準体重から導く1日の適正エネルギー量の算出方法

適正エネルギー量(1日)=標準体重(kg)×25~30kcal

溝の口駅前甲状腺・糖尿病クリニックの食事療法

食事の食べ方に注意する

腹八分目で食べる

血糖値が上昇する・太る原因はカロリーオーバーです。必要なカロリー以上に食べないよう心掛けるというシンプルな方法をまずは試しましょう。これまでよりも1割程度食事量を減らす、腹八分目を心掛けるなどが有効です。

ゆっくり味わう

よく噛んで、時間をかけて食べることも重要です。噛む回数を増やし、ゆっくり味わって食べることで、少ない量でも満足感の高い食事が可能になります。

朝食の欠食、夜食をやめる

朝食を必ず食べるよう心掛け、就寝直前の食事は控えましょう。睡眠中にはエネルギーをそれほど必要としませんが、日中の活動にはエネルギーが不可欠です。体内リズムからも朝食をしっかりとってエネルギー消費に備えることが重要です。就寝中にはエネルギーの消費量が最低限となりますので、夜食をとってしまうと血糖値が下がりにくくなってしまいます。就寝前の数時間は食事や糖分の多い飲み物の摂取を控えましょう。

空腹時に買い物をしない、 目の前に食べ物を置かない

食欲は人間の本能的な欲求であり、空腹時に買い物をするとカロリーの高い食品を無意識に選択してしまい、過食につながります。また、テーブルなど目に見える範囲にお菓子やフルーツをはじめとした食品がいつもある状態では食欲中枢が過剰に刺激され、カロリーオーバーの原因になります。食べものは冷蔵庫や扉のある棚など見えない場所に保管し、食べる分だけ出すようにしましょう。

食事のとり方の順番を変える

同じメニューを食べても食べる順番に気を付けるだけで食後血糖値の上昇率は変わります。ご飯・パン・麺類などの炭水化物は糖質であり、食事の最初に食べてしまうと食後血糖値が急上昇し、大量のインスリンが急激に分泌されてしまいます。食物繊維が豊富な野菜、海藻、キノコ、コンニャク、汁物などを先に食べることで血糖値やインスリンの上昇を緩やかに抑えることができ、炭水化物のとり過ぎによるカロリーオーバーも避けられます。

先に食べるもの

  • 根菜をはじめとした野菜、海藻、キノコなど食物繊維を多く含んだもの
  • 汁物(みそ汁やスープなど)

後に食べるもの

ご飯・パン・麺類・餅などの炭水化物

高カロリー食に注意する

1gあたりのエネルギー量は糖質・タンパク質が4kcal、脂質は9kcal、アルコールは7kcalとなっています。脂質やアルコールはかなり高カロリーであり、摂取量が少なくてもカロリーオーバーしやすいことを理解しましょう。特に脂質である油分はうま味成分を閉じ込め、溶け込ませる役割があることで美味しさを強く感じさせ、過食につながりやすいので注意が必要です。

調味料にも注意が必要です

調味料には多量の脂質や糖質が含まれ、高カロリーのものが存在します。鶏胸肉とキュウリの低カロリーサラダでも、ゴママヨネーズやラー油をたっぷりかけてしまうと高カロリーメニューになってしまいます。調味料は少量だけ使うイメージがあると思いますが、よく使う調味料のカロリーを調べ、1回分でどのくらい使うかを確かめてみることをお勧めしています。また、高血圧の合併や進行を防ぐために、塩分にも注意してください。

脂質・糖質・塩分の摂取量を抑える

調理の工夫

  • フッ素樹脂加工のフライパンを使い、油をできるだけ使わないで調理します。
  • 肉を焼く際には網やグリルパンを使って余分な脂肪を落とします。
  • 肉をゆでる・煮る場合には、浮いてきた油をこまめに取ります。

菓子類・清涼飲料水を控える

糖質や塩分は感覚を鈍らせ、無意識に食べ過ぎてしまう傾向があります。これは食事だけでなく、間食として口にするお菓子や清涼飲料水も同様です。食べものを口にする際には味覚に頼らず、栄養成分表示を確認して適量に留めるようにしましょう。

体に良い青魚の油脂は積極的にとりましょう

青魚は背中が青みがかった魚を総称する通称で、代表的なものにサバ・イワシ・サンマ・アジ・マグロなどがあります。良質なタンパク質、肉類などでは不足しやすいビタミンD、血液サラサラ効果や脂質の脂肪産生を抑制する効果のあるEPA(エイコサペンタエン酸)、脳に不可欠な成分であるDHAといった成分を豊富に含んでいます。特にEPA とDHA は、n-3系多価不飽和脂肪酸であり、積極的に接種することをお勧めしています。

野菜、海藻、キノコを意識してとりましょう

体内でエネルギー源として活用される糖質、タンパク質、脂質は燃焼と消費のためにビタミン・ミネラルが不可欠です。ビタミンやミネラルが豊富な野菜や海藻、キノコなどを毎食、しっかりとるようにしましょう。また、こうした食品には食物繊維が多く含まれており、食後血糖値の急激な上昇を抑制する効果も期待できます。

飲酒は適量・休肝日をつくりましょう

お酒イメージ適量を超えた飲酒を続けると健康に様々な悪影響を及ぼします。過度な飲酒習慣があると高血圧による心臓や血管への負担を増加させ、カロリーオーバーによる肥満・糖尿病・脂質異常症の発症・悪化につながり、脂肪肝や肝硬変といった肝臓疾患の発症・進行リスクが上昇します。また、消化管の粘膜にダメージが蓄積し、がんの発症に関与する可能性もあります。
男性の場合、肥満していなくても飲酒量が多いと空腹時の血糖値が高い傾向があり、飲酒習慣が肝臓でのインスリンの働きを低下させている可能性が指摘されています。さらに、わずか1週間の禁酒によってインスリンの働きの改善効果が期待できることも報告されています。習慣的に飲酒されている方は飲酒習慣を見直して、適量の飲酒や禁酒期間を定期的に設けることを意識しましょう。

適量を守りましょう

アルコール摂取量の基準とされるお酒の1単位は、純アルコールに換算して20gであり、この1単位を各種アルコール飲料に換算したものが下記の表です。ただし、数値は銘柄によって変わりますので、あくまでも目安として参考にしてください。なお、女性・高齢者はさらに少ない量に抑える必要があります。

ビール(中ビン1本)5度 500㎖/200kcal
清 酒(1合)15度 180㎖/185kcal
ウイスキー(ダブル1杯)43度 60㎖/142kcal
ワイン(1/4本)14度 180㎖/131kcal
焼 酎(約0.6合)25度 100㎖/140kcal
休肝日を必ず作りましょう

アルコールは胃と小腸で吸収されて血液に入り、ほとんどは肝臓で分解処理されます。アルコールは人体にとって毒物ですので、肝臓はアルコールの分解を優先して行います。適量を超えた飲酒を続けていると肝臓がアルコールの分解にかかりきりになり、脂肪の分解が後回しにされて肝臓に未処理の脂肪が沈着して脂肪肝となります。飲酒量を適度にとどめるだけでなく、毎週2日程度の休肝日を設けて脂肪の分解を促し、脂肪肝を予防しましょう。

アルコールの大部分は肝臓で代謝されます

肝臓は1時間に体重1kg当たり0.1~0.2gのアルコールを分解できるとされており、適量の20gを分解するためには体重60kgの場合、1.5~3.5時間を必要とします。適量を守った飲酒でも休肝日を作ることが重要です。

糖尿病の運動療法

血糖値に対する運動の効果について

有酸素運動で血流が改善すると血液中のブドウ糖が細胞に取り込まれやすくなり、インスリンの働きが改善して血糖値を下げる効果が期待できます。また、筋力がアップすると消費するカロリーが増えて代謝が活発になり、インスリンの働きを高めますので、無理のない範囲の筋力トレーニングも有効です。
なお、強い負荷のかかる運動では、血糖値を上昇させるアドレナリンやカテコラミンといったホルモンの分泌を促しますので、血糖値が高くなることがありますが一時的で戻ります。
運動は心臓や腎臓、関節に負担をかける可能性がありますので、患者様の状態や体調、体格に合わせた運動内容を医師と相談して行うことが重要です。また、運動にはケガのリスクはありますが、習慣化することでバランス感覚が向上し、ケガをしにくくなります。運動の前後には軽いストレッチを必ず行い、無理はせずに継続的に運動を続けましょう。

溝の口駅前甲状腺・糖尿病クリニックの運動療法の方針

糖尿病患者様のための運動療法には、必ずすべきという決まりは特になく患者様の状態に合わせた内容が推奨されており、ガイドラインでは下記のように紹介されています。

  • 最高心拍数の50〜70%になる中等強度運動を週3回以上、毎週の合計が150分以上になるように行う
  • 最低でも週2~3回、レジスタンス運動(筋肉に抵抗をかける動作を繰り返す運動)を行う

レジスタンス運動はスクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操などがあり、患者様の状態に合わせて、スクワットは机や壁に手をついて行うなど最適な負荷になるよう調整します。

1日1万歩が目安となりますが、1日約20分2千歩を歩くことで糖尿病治療の指標となるHbA1cの検査数値が約0.7%低下したという報告もされており、気軽なウォーキングでも効果が見込めます。逆に座っている時間が長くなると、それに比例して予後が悪化するという報告もされていますので、デスクワークや運転などで座っている時間が長い場合には、デスクの下でかかとを上げ下げする、こまめに立ち上がって歩く、ストレッチをするなどの対策が必要です。
運動内容にこだわるよりも、気付いたらとりあえず動く・少しでも歩くことを心掛けましょう。

効果的な運動

有酸素運動

運動ウォーキング、軽いジョギング、水泳など、少し汗ばむ程度の全身運動を1回20~30分程度、1日2回程度行います。長く続けられるよう、最初は通勤や買い物などで歩く時間も含んで1日1万歩を目標にすることをお勧めしています。スマートフォンの健康管理アプリなどを利用することで、運動に対するモチベーションをアップさせ、楽しみながら続けられるようにしましょう。
ただし、軽い有酸素運動でも、高血圧、心臓病などの循環器疾患、肥満、関節炎などがある場合には運動の種類・強度・時間・頻度について必ず医師と相談し、それに従って行うようにしてください。

(例)ウォーキング

正しい歩き方を心掛けることで高い効果を得られます。背筋をまっすぐに伸ばし、やや大股で歩きます。少し汗ばむ程度の強さが推奨されていますので、散歩よりはやや早足といったスピードを保ちましょう。転ばないためにも、つま先を上げてかかとから着地することを心掛け、腕をしっかり振ることで足が自然に前に出やすくなります。
ウォーキングの前後にはアキレス腱を伸ばすなど軽いストレッチを行い、こまめに水分補給を行うことも重要です。

筋力トレーニング

筋力トレーニングは大きな筋肉がある足、腰、背中を鍛えることで高い効果を期待できます。また足、腰、背中の筋肉を鍛えることで骨や関節への負担を大きく下げられます。特別なマシントレーニングは特に必要なく、自宅で気軽に、安全にできる方法を当院ではお伝えしています。患者様の状態や年齢、体格などに合わせたメニューをお伝えしていますのでご相談ください。

(例)ふくらはぎのトレーニング

両手を壁に当てて両足のかかとを上下させる運動をゆっくり繰り返します。家具などに手を当てて行うと動いてしまって転倒する可能性がありますので、必ず壁に手を当てて行うようにしてください。ふくらはぎの筋肉は第2の心臓と呼ばれ、足に届いた血液を重力に逆らって心臓まで戻すという重要な役割を持っており、ふくらはぎの筋肉を強化することは健康に大きく役立ちます。

運動のポイント

運動のポイント以下でご紹介する強度(負荷)、頻度と時間、時間帯などは、一般的な目安であり、患者様の状態、年齢、体格などによって大きく内容が変わることがあります。特に他の病気を合併している方、運動から長く遠ざかっている方などでは、軽い負荷からはじめる必要があります。医師と相談し、患者様に合わせた内容の運動を行いましょう。

強度(負荷)

「ややきつい」程度の負荷が推奨されています。こうした感覚には個人差があるので、医師と相談した上で行った場合でも不安がありましたらご相談ください。
なお、糖尿病治療における運動療法では、50歳未満で100~120、50歳以上は100未満の心拍数が簡易的な目安とされています。目安にする脈拍数(回/分)の算出方法として、軽い有酸素運動では【(220-年齢)×0.6】、負荷がかかるレジスタンス運動では【(220-年齢)×0.75】で計算することもできます。算出した目安の脈拍数を参考に、スマートウォッチなどで脈拍数を確かめながら運動を行うこともお勧めできます。

(例)50歳の方の負荷がかかる運動時の心拍数目安

目安にする脈拍数(回/分)=【(220-50)×0.75】
=127.5回/分

頻度と時間

1回20~60分の運動を行い、1週間の運動時間が150分以上になるようにするのが目安となります。理想を言えば毎日続けることが効果的ですが、運動療法の最も重要なポイントは継続して習慣的に行うことにあります。厳しい内容や頻度を守ろうと無理をして続かなければ意味がありません。年齢、体格、状態などに合わせることも重要ですが、患者様がこれなら無理なく楽しんで続けられるという内容にすることも大切です。医師と相談した上で実際に行ってみて、気になることがあったら遠慮なくお伝えください。

時間帯

時間帯はいつでも大丈夫です。なお、食後の血糖値上昇を下げる目的で行う場合には、食後1~2時間以内に運動をすると高い効果を得られるとされています。

歩数計を活用しましょう

1日1万歩は、歩数計以外でもスマートフォンやスマートウォッチなどでも管理しやすく、わかりやすい目標です。過去の歩数を、日ごと、週ごと、月ごとに確認でき、検査結果を合わせて確認することで運動療法の効果を実感しやすく、モチベーションの維持にも有効です。

運動で気をつけること

低血糖を予防しましょう

インスリン、SU薬などの投与を行っている場合、低血糖発作に対する備えが必要になります。水分とブドウ糖を必ず持って運動し、運動している最中に冷や汗、動悸、息苦しさ、ふるえ、脱力感、めまい、意識低下などの低血糖症状を少しでも感じたらすぐにブドウ糖を口にしてください。軽い低血糖の予兆でしたらおにぎりなどの軽食でも構いませんが、ブドウ糖は効果が現れるのが早いので必ず携帯して、低血糖発作が起きたらまずブドウ糖を摂取するようお勧めしています。

運動ができない、細やかな指導が必要なケース

適度な運動は糖尿病だけでなく他の生活習慣病の改善にも役立ちますが、他の疾患があるなどによっては運動が制限される場合もあります。下記のような場合には、運動療法を慎重に行う必要があり、場合によっては運動ができないこともあります。医師と相談して指導を受け、その範囲で運動を行うようにしてください。

  • 空腹時血糖250mg/dL以上
  • 運動で脱水症状を起こした経験がある
  • 感染症にかかっている
  • 進行した自律神経障害がある
  • 進行した網膜症がある
  • 進行した腎臓疾患がある
  • 足に潰瘍や壊疽がある
  • 重い心臓疾患がある
  • 肺疾患がある
  • 骨や関節の病気・ケガがある

日常生活の身体活動量を増やしましょう

運動は時間を作って行うものというイメージがあると思いますが、通勤・通学・買い物での徒歩移動、家事、階段の上り下り、散歩、観光やレジャーでの徒歩移動、身体を使った遊びやゲームなども運動です。
ウォーキング・ジョギング、水泳、ヨガ、ジムでのマシントレーニングなどにこだわらず、日常生活の中で気軽に行うことができ、楽しく続けられる自分の運動メニューを作っておくことが有効です。

  • 通勤や通学の際に、1駅分歩く
  • デスクワーク中にかかとを上下させる
  • 仕事の合間にストレッチをする
  • 少し遠い店まで徒歩で買い物に行く
  • 散歩を習慣化する
  • できるだけエレベーター、エスカレーターを使わず、階段を使う
  • 掃除や洗濯などの家事を毎日のルーティンワークにする
  • 観光の際には、できるだけ徒歩で回る
  • 登山、ハイキング、バードウォッチングなど歩く楽しみを味わえる趣味を見つける